遺言書は法律で定められた要件を必要とする要式行為です。
民法の定める様式に従わなければ法的効果は発生しません。無効の遺言書は相続人に混乱を生じさせ、ついには争族まで発展しかねません。
作成のサポートには専門家にお任せください。 せめてリーガルチェックだけでも受けてください。

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○遺言書の種類
[普通方式遺言]
1.自筆証書遺言書
2.秘密証書遺言書
3.公正証書遺言書
[特別方式遺言]
1.一般危急時遺言書
2.難船危急時遺言書
3.一般隔絶地遺言書
4.船舶隔絶地遺言書

通常は普通方式遺言のみが有効。
特別方式は特別な状況時のみ有効となる遺言である。いわば特例である。

特別方式による遺言の効力は
「遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から
6か月間生存するときは、その効力を生じない」 (民法983条)

つまり特別な状況を脱した後6か月後には特別方式遺言は無効になる。

遺言事項
遺言でなし得る事項も法で定められている事項に限定されると解される。(遺言をすれば法的効力が生じる事項)*限定的だが解釈によって遺言でなし得るとされる事項もある。
①相続に関する事項
(ア)相続分の指定、相続分の指定の第三者への委託(民法902条)
相続分の指定とは、相続人の相続分を定めること。相続人全員の相続分の指定をすることも、一部の相続人についてのみ指定することもできる。
・直接割合を決める
・特定の財産を相続人に相続させたり遺贈させる。    これらも相続分の指定に含まれる。
相続分の指定の委託とは、相続分を指定することを第三者に委託することを遺言で行う。
この第三者には利害関係人は相当でなく、相続人や包括受遺者は含まれないと解される。
*相続人や包括受遺者ではない者を遺言執行者に指定し、同人に相続分の指定を委託することは許される。
(例)妻に遺産の80%を、残り20%を子Aにする、など。

(イ)遺産分割方法の指定、遺産分割方法の指定の第三者への委託(民法908条)
遺産分割方法の指定とは、現物分割、代償分割、換価分割などの分割方法を指定を指す。
さらに具体的な配分方法を定めることも相続分の指定も含み、遺産分割方法の指定と解される。
第三者への委託の意義は上記(ア)と同じ。
(例)A不動産を妻に、B預金を子に、など。

(ウ)相続財産そのものの処分(相続させる旨の遺言のこと。現在は特定承継遺言という)
「相続人に***対して***を相続させる」という文言を使い、上記(ア)(イ)の趣旨を含む、財産処分そのものを行う事が出来る。

(エ)遺産分割の禁止(民法908条)
5年間に限り、遺言で遺産分割を禁止する事が出来る。理由は問われない。あまり使用例はない。

(オ)相続人の廃除及び廃除の取り消し(民法893条、894条2項)
推定相続人の廃除やその取り消しの意思表示も遺言ですることができる。

②相続以外の財産の処分
(ア)遺贈(民法964条等)
遺言による財産の処分。相続人以外の者への相続財産を渡すときは遺贈となる。
配偶者居住権を配偶者へ遺贈することもできる。(民法1028条1項)配偶者居住権は遺産分割協議で主張もできるし、遺言書でもすることができる。

(イ)一般社団法人設立のための寄付行為(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条2項)遺言者は同法に規定する事項を定め一般社団法人を設立する意思を表示する事が出来る。

(ウ)信託の設定(信託法2条、3条2項)遺言によっても信託を設定する事が出来る。

(エ)生命保険の死亡保険金の受取人の指定や変更(保険法44条、73条)保険法の制定により、遺言書によって受取人の変更が明文で認められた。

③身分に関する事項
(ア)遺言認知(民法781条2項)遺言で認知をすること

(イ)未成年後見人の指定(民法839条1項、848条)未成年者について最後に親権を行使する者は遺言で自分の死後の未成年後見人を指定する事が出来る。また未成年後見人を指定できる者は未成年後見監督人を指定する事が出来る。

(ウ)財産管理のみの未成年後見人の指定(民法839条2項)親権を行う父母の一方が管理権を持たない場合には、その他方(管理権を有している父又は母)は遺言で自分が死亡後の未成年後見人を指定する事が出来る。

④解釈上遺言でなし得るとされている事項
(ア)特別受益の持ち戻しの免除(903条3項)特別受益のある相続人について持ち戻し計算をしないでよいという意思表示。これも遺言でできる。

(イ)無償譲与財産を親権者に管理させないし表示と管理者の指定(民法830条、869条)無償で財産を未成年者に与える場合に、その財産を親権者(後見人)に管理させたくないとき、財産
の管理者を定める事が出来る。そこで遺言で未成年者に無償で財産を与える場合に併せてその財産の管理者を指定することもできる。

(ウ)祭祀の承継者の指定(民法897条1項)被相続人の祭祀の承継者を指定する事が出来る

付言事項
上記に述べて事項以外を遺言中に記載する事が出来る。葬儀についての希望、遺言をするに至った心情、相続人や家族や知人に対する感謝の気持ち、いわゆる遺訓など。単に法定の事だけでなく心情的な事項を
残しておきたい気持ちは理解できるため、これらを記載することは何ら差し支えありません。ただし法的な効力はありません。

遺言書に書ける法的効力のある15項目のまとめ
①相続分の指定、相続分の指定の第三者への委託
②遺産分割方法の指定、遺産分割方法の指定の第三者への委託
③相続財産そのものの処分(相続させる旨の遺言)
④遺産分割の禁止
⑤相続人の廃除またはその取り消し
⑥遺贈
⑦一般社団法人設立のための寄付行為
⑧信託の設定(遺言信託)
⑨生命保険の死亡保険金の受取人の指定、変更
⑩遺言認知
⑪未成年後見人の指定
⑫財産管理人のみの未成年後見人の指定
⑬特別受益の持ち戻しの免除
⑭無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定
⑮祭祀の承継者の指定

自筆証書遺言が有効とされる要件
①遺言書が遺言書全文を自筆する事
②遺言者が自分で日付を記載すること
③遺言者が署名、捺印をすること
④加除等の変更をするときは、定められた方式を守る。
どれか一つでも満たされていない場合はその遺言書は無効である。

①全文が自署について
(ア)平成31年1月13日以降の遺言書ならば財産目録はワープロでもよく、預貯通帳もコピーでも可。平成31年1月13日以前の遺言書については財産目録も自署、預貯金通帳もコピーは不可。
(イ)自ら筆記できない者は自筆証書遺言の作成はできません。添え手での自筆については、添え手が単に始筆、改行、字間の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に置くなど添え手した者の意思が介入した痕跡のないことが筆跡の上で判定出来る場合は自筆の要件を満たす
(ウ)カーボン紙を用いて複写の方法による起債も自署と認められた。
*遺言の一部について第三者に記載させ、その部分が特定された場合は、その部分だけでなく、遺言書そのものが無効になる。

②日付の記載について
(ア)日付記載の要求の趣旨は遺言能力の存否や遺言時の遺言者の状態を判断する基準、複数の遺言書が存在した場合の優劣の判断する基準である。
(イ)記載方法は元号でも西暦でもよい。「30.4.20」とに記載でも特定の日を指すことが客観的に明確であれば問題ない。
(ウ)本文に日付の記載がなくても、本文を封入し、封印した封筒に日付の記載がある場合も有効である。
(エ)本文記載と異なる日に日付のみを記載した場合は、その日付の記載日が遺言の完成日とみる事が出来る。本文記載日から多少遡って(2日前など)日付を記載するのは問題ないとされているが、本文作成から2年前に遡らせたような場合は日付のない遺言として無効である。
(オ)「令和*年*月吉日」といった特定日の記載のないものは無効であるといえる。しかし、その月に遺言能力に問題がなくかつ重複する遺言がない場合は趣旨に反しないが、厳格な方式を要求する趣旨からいえば無効と解されるのである。

③署名・捺印について
(ア)署名が必要な理由は遺言者を明らかにする趣旨であるから、通称やペンネームなどでも同一性が確認できれば有効である。
(イ)捺印に用いる印鑑は実印でも認印でもよい。印鑑に代えて指印でも有効とされる。

遺言能力について
遺言書作成に必要な能力。
①意思能力(民法3条の2)
精神障害者や5歳程度の意思能力しかない者など意思能力のない者が書いた遺言書は無効である。また錯誤のある遺言は、その錯誤が目的等に照らして重要なものであれば、詐欺強迫による遺言と同様に遺言者又はその相続人が遺言を取り消すことができる。

②行為能力(民法962条、973条)
民法上、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人が制限行為能力者とされているが、遺言についてはこれらの規定がそのまま当てはまるわけではない。
遺言に相応しい意思能力を備えている人であれば何の制約もなく遺言をする事が出来る。事理弁識能力がないのが常況の成年被後見人も、意思能力が一時的に回復したときに限り、医師二人以上が立ち会い、かつ意思能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、署名、押印をすればできる。

③遺言と年齢制限(民法961条)
遺言については満15歳に達していれば、親権者の同意なしに単独でする事が出来る。
15歳に満たない者のした遺言は、無効である。未成年者の行為は取り消しできる、という民法5条の規定は適用されない。

遺言が無効となるケース
*遺言書は1つ間違えると全部が無効となることがある!

1.自筆証書遺言で無言となるケース
 ケース① 遺言書に日付がない
 遺言書に日付がない遺言は、無効である。(民法968条1項)
 ・遺言書の日付は日にちが分かればよい。
  「還暦の日」ならばOK。「〇月吉日」はNG。
*遺言書には「日付」をはっきりと明確に記載すること!

ケース② 加筆・修正の手順間違い
  書き間違いた際、単に二重線を引いて書き直した。
  この場合、書き直した部分については、無効である。その部分の遺言は効力を生じない。
  加除(加筆・修正など)は一般的な文書より厳格な基準が法律で定められている。 
 ・加除の方法
  ①修正する箇所に二重線を引き、横に書き直す。
  ②修正箇所に押印をする。
  ③遺言書の末尾、または空きスペースに「四行目一文字削除し、一文字追加」といった追記をし、自筆で署名する(民法968条2項)
*これらの行為を一つでも省くと、加除の効果が生じない。書き間違えたときは書き直すことが最善である。

ケース③ パソコンで作成
  自筆証書遺言は、本人が全文を自筆で書くこと!
  パソコンで作成した遺言、それをコピーした遺言は無効である!
 ・上記の遺言にたとえ自筆の署名があったとしても、無効。
 ・パソコンで作成してよいのは「秘密証書遺言」である。混同しないこと。
 ・財産の目録や預貯金の通帳のコピーを、遺言と一緒に保管してある書面は有効である。
  毎葉に自署と押印は必要。
  ただし、改正前(2019年1月13日より前)に作成された自筆証書遺言書には適用されない。
 あくまで2019年1月13日以降に作成された遺言書でなければならないので注意。
*財産目録が数枚になるときは、毎葉に自筆での署名、捺印が必要。両面に記載したときは両面ともに必要。
*本人が自ら作成する自筆証書遺言は、必ずすべてを自筆すること!

ケース④ 不明確な遺言書
  遺言書はそれをもって相続財産の名義変更などの手続を行うため、分割内容を記載する際、「どの財産を指しているのか」「範囲はどれくらいか」などを誰が見ても明確に分かるようにしておかなければならない!
 ・不動産であれば、登記簿に記載されている
  所在、地番、地目、地積、家屋番号、構造、床面積 など正確に記載する。
  地番と住所表記は異なることが多い。
  通常の住所表記を相続財産として遺言に記載すると土地、建物が特定できず、その部分につては無効となる恐れがある。
*通常の住所表記で遺言を書いてしまうと、土地・建物が特定できず、無効になるおそれがある!

ケース⑤ 他人の意思の介入が疑われる
  遺言書自体が有効なものであっても、相続人から「遺言無効確認の訴え」を提起されるケースがある。
  遺言に疑義が生じる原因があり、遺言書自体が無効だと主張する訴え。
  (例) 遺言者が意思無能力者、制限行為能力者だった場合公正証書遺言は証人2人の前で遺言者が遺言内容を口授し、これを公証人が書留め、遺言書を作成する、といった検認の必要がないほどの極めて証拠力の高い遺言書である。
   しかし、現実の作成では事前の打ち合わせが行われ、口授の時には遺言者は返事をすればよい、というような状況まで完成していることが多々ある。このような場合、被相続人が事前打ち合わせの段階で相続人の1人に唆されて作成させられる危険がある。(事前には証人は不在)遺言者の意思がない、つまり遺言能力のない者が作成した無効な遺言書として無効を主張されるおそれがあるのである。
*公正証書遺言は、作成時には必ず自ら作成の時に全部を口授するようにすること!

意思無能力者でも、意思能力が一時的に回復した時に遺言書の作成はできる。
ただし、意思能力があったことの証明が必要になる。その手段として
①医師2人以上の前で作成する。
②作成の姿をビデオに残す、など意思能力があったことを証明できる記録。

遺言書の有効、無効は本人だけでなく相続人にとっても大きな問題となる。無効になった内容の一つで親族内で争いが起こるのは現実によくある話です。
確かに一生に一度書くかどうかの遺言書を間違うことなく書け、というのは難しいことです。
しかし間違いのあった遺言書は残された家族に争いを呼び込む種となることがあります。
多少の費用が掛かったとしても、残される家族のために専門家に依頼することをお勧めします。
争いが起こってからでは遅いのですから。

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